①領域の概要
一見単純な細胞の集合がいかに生命としての機能を保持し発生するのか?という生命創発の謎は未だ明らかにされていません。近年になり、試験管内(in vitro)で幹細胞のみを用いて妊娠初期の胚を模した再構成胚「幹細胞胚モデル(in vitro胚モデル)」を作製することが可能になりました。これまで困難であった着床後の発生機序の研究や、検体入手の制限から解析が難しいヒト発生の研究が可能になると期待されています。しかし、世界中でこれまで報告されたin vitro胚モデルは着床直後に異常をきたしてしまい、その後に続く器官形成期まで発生しません。すなわち、in vitro胚モデルには、通常の受精で得られるin vivo胚に内包される発生の進行を支える仕組み「発生保証機構」が備わっていないと考えられます。本領域では、細胞の集合が生命体としての機能を保持し発生していく「生命創発」の原理を構成的に理解するためin vitro胚モデルを活用します。さらに、生命創発と発生保証機構を体系的に理解するために、in vivo胚の複雑な発生過程における細胞間相互作用や転写因子ネットワークに関しオミクス、単一細胞計測、光学測定等の先端技術を活用し、多角的かつ大規模な計測を行います。得られた計測データからデジタル胚モデルを構築し、生命創発の鍵となる要素をin silicoシミュレーション予測します。
②公募する内容、公募研究への期待など
本領域では、in vivo胚と個体の操作を中心に据えてきた従来の生命工学にin vitro胚モデルとin silicoデジタル胚モデル研究という新しい技術を融合させることで「次世代生命工学」へと変革させ、細胞集団から生命が創発する分子機構の構成的理解と制御を目指します。
A01では、出発点となる幹細胞、その幹細胞から作られるin vitro胚モデルを着床期、器官形成期、個体形成含め構築します。A02においては、生命を内包するin vivo胚を用いて、父母性因子、転写プログラム、エピゲノムの解析と高難度胚操作を組み合わせ、発生を保証するメカニズムを明らかにしていきます。これら2つの対照的な研究項目を連結し一体とするため、A03において、生命現象の背後を計測し予測するための最先端のデジタルサイエンスの概念や方法論を活用します。すなわち、A01とA02において最新技術を用いて計測したマルチモーダルデータをもとに、A03がデジタル胚モデルとして統合し、in silico予測します。3つの研究項目が連携し、データの取得・解釈・予測のフィードバックループを回すことによって生命創発と発生保証の謎を解明します(図)。
公募研究では、計画研究にはない視点から領域目標に貢献する研究、計画研究と双方向的に連携し計画研究を多層的に補完する研究提案を期待します。例えばイメージングや代謝、さらにはAIを活用してin vitro胚モデルやin vivo胚のパラメーターを計測する研究やex vivo胚培養研究等があります。また、in vitro胚モデルやin vivo胚で計測された要素を個々にモデル化するのではなく、統合したデジタルツインを構築することが重要です。このため複数要素を統合するMultimodal foundation modelといった新規アルゴリズムの開発はin silicoシミュレーション予測に必須であり、提案を期待します。これらの例にとどまらず、本領域目標に則した多彩な研究計画を期待します。
③公募する研究項目、応募上限額、採択目安件数
研究項目番号 |
研究項目名 |
応募上限額(単年度当たり) |
採択目安件数 |
A01 |
in vitro胚モデルによる生命創発 |
450 |
5 |
A02 |
in vivo胚における発生保証機構 |
450 |
4 |
A03 |
in silicoデジタル胚技術の開発 |
450 |
5 |